西端にて

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逃亡劇を止めよう。と自然に思ってから
「明後日戻ります。」と母に報告するまで時間はそうはかからなかった。タイムリミットまで私はひたすら歩き続けた、工業地帯の煙突から留まることなく排出される白煙が風に揺れる様を見つめながら私は目的もなく歩き続けた。
あとからわかったことだがその日の私の移動距離は20kmはゆうに超えていた。地元の人からしたら「そんなとこまで歩いたん?」とかなり驚かれる距離である。いや、地元の人じゃなくても驚かれるか。
"戻ること"を決めてから現実世界を思い、また胃が痛んだ。胃を痛めながらも私は三流小説の主人公のように、気がつけば海を目指していた。雲ひとつない快晴で太陽が私の肌を焼き、喉がカラッカラになりながらも県境を越え最高目標の道の駅を目指す。イヤフォンはしていなかった、大型トラックが横でビュンビュン走る、申し訳ない程度に作られたであろうあまりにも細めの歩行者通路で私は走行音と波の音をBGMに歩いた。数日で体力が復活したのかそこまで苦痛には思わなかった。

 

「目に焼き付ておきたい」

わたしはただただ見つめた、暖かいはずなのにも鳥肌がたっていた。瀬戸内の海をただ…

 

向かいの島はあまり地理感のない私にはわからなかったが、いつかの小豆島を思い出す。
デッキから防波堤に駆け寄りよじ登り
腰をかける。日差しが容赦なく降り注ぐ、
市場には人がポツポツといたが構うもんかという気持ちで風に当たっていた。

都会に疲れていたのだろうか
この地を五感を使って堪能したらほんの少し涙がでそうになった。
都会で消耗されつくされ目的もなくただ生かされたような1年で私はスッカリと五感を使うことさえも忘れていた。

 

「私は、旅が好きなんだ」

「私は、旅を愛し旅をしている自分が好きなんだ」

 

こうして、私の僅かな物理的逃亡劇は幕を閉じた。ほんの少し自分を取り戻せたと思いたい、皆、祝って欲しい、こういう形になってしまったが次へ踏み出す決心をした私のことを。

 

 

 

 

賑わう車内で私は大学時代の恩師が私にくれた言葉を思い出していた。
「レールから外れることは不幸せではない」

 

レールから外れる勇気はあるか?やれるか?

 

生唾を飲み込み、私は開いた新幹線のドアから一歩踏み出す、これで大丈夫。