可惜夜

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疲れたと零すコンクリートジャングル人間1匹。

日付が変わり12月6日。

また電車は遅延、時刻は違えど5年前と同じ。

終電で帰る気は失い、今日は珍しくミネラルウォーターで歩きたくなった。

 

歩き始めてすぐに尻に振動

ほろ酔い故の気のせいか、仕事のメールか

ケツポケットに手を突っ込みiPhoneを取り出す

 

「今日は⚪︎⚪︎さんのお誕生日です!」

 

何年経っても新しいデバイスにしても、

毎年この日を律儀に、能天気に、

教えてくれるCloudに少し笑ってしまった。

「あとで消しとこ」そう思い立っても

忘れ去ってしまって早5年。

 

もう、5年も経ってしまったのか

まだ5年なのか 適切な言葉が見当たらない

 

お前に言いたいことがあるとすれば

詩なんて書けねぇよ、

お前を思い出すから、夭折なんて言葉大嫌いだ。

 

CLUB 27に入れたら最高だけど入れねぇよ、入りたくねぇ、負けたくない。覚悟は決めたくとも首はくくりたくない。お前のすべてを、シガラミを捨てたんじゃ、だってもう5年も経ったんだぞ。

 

お前が常々言ってた言葉"きみは、書かなきゃもったいないよ"って最近色んな人に言われるよ。

 

気がつけば、俺、もうお前の歳になったよ。

頭ん中小学生のままだよ、相変わらず。もう、被写体になることはなくなったよ。けどタバコはやめてないよ、銘柄も変わってない。今一箱530円なんて信じられる?そういや、あれから背が少し伸びたんだよ。


世に揉まれるにつれて狭い家で楽しんだ貧乏暮らしを思い返すことは少なくなったよ。

 

缶ビール片手に帰路を急ぐ追いかけっこ、脚の長い通学の児童。休日の窓で開けっ放しで風で翻ってたバスタオルとお前が好きだった2400円の動物模型、寝起きの掃除機の音、きっちりアイロンをかけたラルフローレンのシャツ、甘いタバコの香りといなり寿司。

 

お前との生活は最高に楽しかった。

現代版神田川って笑ってたあの頃

何も持ってないからこそ楽しかったんだと思う

 

 

だけど、枝を持ってトンボを追いかけていたあの公園も、俺が前の恋人との指輪を御苑で投げた時「始球式」ってはしゃいでたあの笑顔もあの枝の感触もお前の顔もアトピーで荒れた足もあやふやでちゃんと思い出せない。

 

神を信じていた青年はもういなくなってしまった。

 

お前は知らないだろうな、最近お前の好きなアーティストのサブスクリプションが解禁されたことを。俺があんな街を捨て去りトーキョーに染まってしまったことを。

 

お前は知らないだろう、駅が改装されていつもの待ち合わせ場所がなくなってしまったことも、お前が好きだった駅前の変な雑貨店が有名なスーパーマーケットになってしまったことも、あの駅に有名なパン屋が出来てそこがとても美味しいことも。

 

「トーキョーに空はやっぱりない」

お前がいつも天窓に吐き出した言葉

 

郊外の六畳一間では見つけられなかったけど

あったんだよ、トーキョーにも。

 

 

長いようであっという間の5年、

お前に恨み節を並べてしまったこともあるが、俺が追いつくまでに話のネタを用意しておくから、せめてそこでは幸せであってほしい。

 

 

時効成立かな、そう思って俺は煩いトーキョーで立ち止まりカレンダーからお前をやっと削除した。