「うわっ、似合わねぇ」
と、鏡の前で30900円(抜)のパーカーを試着した私は思わず声に出してしまった。ドアからはコンコンという音と「サイズどうですか?」という店員さんの声が聞こえる。ドアの外では連れが待っていたというのもあり、羞恥心を抱きながらそのまま外へでる。
「やっぱりあんたは派手なの似合わないね」という声が笑っていた。
MADE IN FRANCE、敬愛する川久保玲監修の二色刷りのアメコミのようなパーカーは私にとっては敵というのは間違っていなかった。
意気消沈していた私を哀れんでか、「SSは、1.12 立ち上げなのでまたお手紙書きますね」といつも乱れぬ繊細なテクノカットの担当者は暗に"やめとけ"と私に告げたので、
珍しく何も買わず意気消沈しながら店を後にしようとした時「君、いつもモンクレール似合うよね」と初めて無駄口を叩いたテクノカットに愛想笑いを浮かべてみた。
けれども、1時間前にこれええやーんと思った78000円(抜)のトレーナーを買うほどの甲斐のない私はとぼとぼ店を、そのまま館を後にし改札口入ってすぐの行きつけのカフェでビールの大ジョッキを母親の分も買ってやり、席につく。
母親は、買ったばかりのMADE IN BERLINのメガネを外したり外さなかったりして露骨にニヤニヤしながら、
「あんた、顔ちっさいね」と我が子の顔の大きさを褒め称える。
ありがとう とも告げず、
「欲しいもんがなーんもないから、困るわ。」と言いながらハイネケンを摂取してみる。
ハイネケンには、自分の形容しがたい感情が混入していた。あなたにはこれが見えるか?
そう尋ねたい気持ちを一気にハイネケンで流し込み、「今日は酔ってもいいよね?」と
2杯目を買いに走った。